
電気の事なんて電力会社に全部任せておけば良いだろう
停電なんて起きるの大災害くらいだし
台風が来たって1日で復旧させるだろうよ
ええ、一昔前まではこういった考えでOKでした。
ですが、電力自由化・発送電分離になってしまった今、電力会社の安定供給は危ぶまれています。
皆さんは2018年9月6日北海道胆振東部地震を覚えているでしょうか?
この時、電力業界では日本史に残る北海道の全停"ブラックアウト"を経験しました。
今後大規模災害でなくても、こういった大規模停電は今後頻繁に発生する可能性が出てきます。
「電力の安定供給」終焉の危機です。
電気が当たり前になった今こそ、停電時の備えが必要になってきます。
今回はこのあたりを噛み砕いて説明したいと思います。
僕の自己紹介を簡単にすると、旧電力会社の送電部門(現在は分社化してグループ会社)で送電に関わる仕事をしています。
年間数億円規模の送電線の工事を担当しているラインマンです。(再エネ関連も担当経験有)
僕の基本情報はプロフィールをご覧ください。
- 北海道ブラックアウトが発生した原因
- 再エネ電力は必ずしも僕たちの生活に利益をもたらす訳ではない
- 南海トラフ・首都直下型地震・異常気象、待ち受ける災害は数しれず
- 停電への備えは必要ですよ【停電した時に身を守るのは結局自分達】
この記事を読めば、北海道ブラックアウトから学ぶべきことが何なのか?が分かるかと思います。
これからの防災について考えるきっかけになればと思います。
もくじ
北海道ブラックアウトが発生した原因
地震によって発生したブラックアウトの原因は石炭火力発電所(苫東厚真発電所)の脱落とされていますが、本当は様々原因が重なってブラックアウトにいたりました。
詳細について後述します。
各電源の停止
各電源が停止に至るまでの順番は下記の通りです。
- 苫東厚真火力発電所の停止(116万kW)
- 風力発電所の停止(17万kW)
- 水力発電所の停止(43万kW)
- 苫東厚真火力発電所の停止(30万kW)
- ブラックアウト
苫東厚真火力発電所は機器の故障、風力発電所は周波数の乱れ、水力発電所は送電網の事故。
この3つが18分間の間に重なっておきてしまいました。
自然の驚異によって起きてしまった物理的破損は仕方ないことだと思います。
が、この他にもいろいろと問題が出てきました。
後述します。
周波数の乱れで再エネが本来の力を発揮しない問題
再エネのメリットは下記の通りと言われています。
- 半永久のエネルギー資源
- 枯渇しない
- 脱炭素
- 非常時電源
再エネの主たるメリットとしてあげられた非常時電源ですが、実際はブラックアウトの時は全く役に立ちませんでした。
その理由が「周波数の乱れ」によるものです。
周波数の乱れを簡単に説明すると
通常、電気というのは常に「需要」と「供給」のバランスが絶妙に釣り合わされて各地に送られている訳で、東日本が50Hz、西日本が60Hzと周波数も決められています。
この辺は中学生あたりで勉強したか思います。
で、この周波数は重要と供給のバランスが崩れると乱れてしまい、周波数の乱れは発電機器の破壊に繋がってしまうため、迂闊に再エネ(風力発電)側が電気を送る事が出来なかったという訳です。
通常はこんな感じで需要と供給のバランスはとれています。通常は100kw/50Hzで各お家をまかなっています。
これが地震が発生したことによってこうなりました。
ここまではまだギリまかなえたのですがここで、地震の情報を集めるために各地で一斉にテレビやパソコンなどを点けてしまったため、需要量が爆上がりしました。
で最後に
ざっくりするとこんな感じで再エネ発電所(風力発電所)が供給網から早々に離脱してしまった訳です。
緊急時の電源として本来力を発揮するはずの再エネが周波数が乱れてしまったために使い物ならなくなりました。
この辺は予測がつかなかった不足の事態だったのです。(地震が夜中で発電していなかったというのもありますが…)
電気主任技術者現場にいない問題
こちらはエネルギーフォーラムの2018年10月号から抜粋したものです。
実は再エネを巡って、担い手の不安定さを露呈させる事態が起きていた。北本連系線が稼働しなかったの9月8日、9両日、蓄電池を併設する道内7ヵ所の大規模太陽光発電所に対し、北電が発電再開を要請したが、1ヵ所も応じられなかったのだ。地震による設備故障や、休日で電気主任技術者を手配出来ないといった理由からだ。
エネルギーフォラム2018年10月号
再エネ電力は必ずしも僕たちに利益をもたらしてくれる訳ではない
上記でも説明したように、再エネは必ずしも僕たちに利益をもたらしてくれる万能エネルギーではないのです。
半永久資源であり"オフグリッド"実現のためには欠かせないエネルギーですが、電力供給を担う送電線という"大動脈"にいくつも付随してしまうと、それだけ安定供給へのリスクを上がるということです。
それに今回のブラックアウトでも分かるように、大電源の周波数が乱れてしまうと結局いざという時に使い物にならなくなるのです。
※オフグリッドに関わる記事はこちらを見て下さい。
送電線と言えど、1つの電気回路に過ぎません。
回路に"電池"が何個もついたら規定の電圧以上で点灯する豆電球がめちゃくちゃ熱くなりますよね??
熱くなりすぎた豆電球はいずれ壊れてしまいます。
そうならないように電力会社で日々の需要と供給のバランスを見込んで調整している訳なのですが、やはり何個も"電池"がついてしまうとその調整も難しくなってくるのです。
"電源が何個もあるから安心だ"なんていうのは幻想で、むしろどんどん複雑化する送電網はメンテナンスが大変になり、災害のよってどこかで事故が発生すると探すのも改修するのも難しくなります。
それに2020年からは旧電力会社は本格的な法的分離(発送電分離)を行いました。
今まで1つの会社が各部門との連携で担ってきた"安定供給"もこれからはより複雑化して対応が遅れる可能性が出てくるのです。
全電力会社は"安定供給"の為に日々全力を尽くして仕事をしています。
が、"複雑化する送電網"と"乱立する再エネ電源"で徐々に連携が捩れてくる可能性を僕は危惧しています。
南海トラフ・首都直下型地震・異常気象。待ち受ける災害は数知れず
20年前に比べて、現在の気象は明らかに"異常気象"となっています。
超巨大台風が来たかと思えばカンカン照りになったり、豪雪に見舞われたり、少しずつですが日本の気候にも変化が訪れています。
また、日本は地震大国であり
- 南海トラフ地震
- 首都直下型地震
など、東日本大震災級の大きな地震も想定されています。
僕は小さい頃に震災を経験したことがあり、電気の無い生活も経験しています。
人間は"あたりまえのもの"が無くなると3日もしないうちに発狂したくなるほどストレスが溜まるものです。
僕も経験したのでその気持は分かります。
ですが、こうも多く災害が発生すると、この"あたりまえのもの"に対する認識も少しずつ変えていかなければならないと感じています。
停電への備えは必要ですよ【停電した時に身を守るのは結局自分達】
自分の身を守るのは最後は自分です。
家族でも友人でも恋人でもありません。
"自分"です。
僕は震災を経験した時にそう感じました。
皆さんは電気の"ない生活"を想定して生活した事がありますか??
無いのであれば一度(休日のうち1日でも)でも家族全員で経験してみたほうが良いです。
あたりまえのものが無い生活というのはかなり不便です。
しかし、大災害が起きてしまえば嫌でもそれに対応していかなければなりません。
ダダを捏ねて文句を言ったって現実なのですから。
電力会社は日々"安定供給"のために仕事をしていますし、災害発生時は寝る暇を惜しんで災害復旧に取り組んでいますが、スピードには限界があります。
1日~2日で復旧すればラッキーな方で、状況によっては長引く事を想定しなければなりません。
※送電部門が停電復旧時に何をやっているかはこちらの記事を御覧ください。
"異常気象"や"大災害"への備えというのは個人単位で準備する時代に突入します。
当たり前の電気も電力システム改革によって"安定供給"は少しずつ捩れてきている事を頭の片隅に入れておいて下さい。
世の中何事も"絶対"なんて存在しません。
いずれ時間を見つけて、個人単位・家族で"防災"や"災害への備え"について、話合い、向き合う時間を設けたほうが良いと僕は感じています。
今回はこんな感じで以上です。