
皆さんこんにちは、TOKAGEです。
今回はコラムチックな記事になりますが、タイトルの通り僕が送電線を設計する際に考えていること、どこに重点をおいて設計しているのか、エンジニアリング思考について少し書いていきたいと思います。
今までの記事は電力会社での生活や働き方、将来性について書いてきましたが、少しずつネタがなくなってきた(というか、このジャンルは他の電力ブログで書きつくされている)ので、方向性を変えて僕が働いていて何に重きを置いているのか?
すこし書いてみたいと思います。
僕の自己紹介を簡単にすると、旧電力会社の特別高圧送電線の設備設計に関わる仕事をしています。
年間数億円規模の送電線の工事を担当しているエンジニアです。(再エネ関連も担当経験有)
僕の基本情報はプロフィールをご覧ください。
- 電力社員の僕が設備設計時に考えていること
- 送電線の設計は何より調査が大事
- 超高圧送電線の設計者は希少価値があります
送電線路(鉄塔含む)の設計に関する内容なので、他の設備設計に携わっている方は自分の設計に置き換えて読んでください。
もくじ
電力社員の僕が設備設計で考慮していること
僕が設備設計時に考慮している内容は下記の通りです。
- 法令遵守(電気設備技術基準&電気事業法)
- 保守性
- 経済性
- 施工性
- 社内ニーズ(検査など)
- 社外ニーズ
こんな感じです。
優先順位は
法令遵守>社外ニーズ>保守性=経済性>社内ニーズ>施工性
になります。
自社設備の設計であれば、社外ニーズはなくなりますが、基本はこの優先順位で考えています。
それでは各項目について深堀りしていきたいと思います。
法令遵守
特別高圧送電線で関わってくる法令は
- 電気設備技術基準
- 電気事業法
の2つです。
たった2つですが、基準を満たさない設計→建設→送電の順で供給線として成り立った瞬間に法令違反です。
むしろこの2つの法令をクリアしていない設計は建設云々の前に設計書を作成する段階で管理職に弾かれます(もっと言えば社内の設計システム弾かれます)。
が、特殊条件などが絡んでくると電技の条件が抜ける可能性が出てきます(鉄塔風圧や絶縁間隔など)
この辺は電技の条件に準じているかはしっかり確認する必要があります。
あとは施工時の法令にも注意です。
意外と建築関係の法律や道路法、森林法なども該当してくるので、この辺も虱潰しに一つ一つ確認しながら法令をクリアして設計していく必要があります。
法令のクリアが以外としんどいのです…(泣)
保守性
先日こんなツイートをしました
将来的な保守性を見越した設計ができないのはエンジニアではなく、何でも屋。
— トカゲ | 電力 (@grid_life_pop) February 6, 2021
僕的にこれは真理に近いと思っており、設計する以上は保守性については考慮すべきです。
てか、考慮しない設計なら別に僕らがやる必要はなく、バイトを雇って設計条件に見合った内容をポチポチ社内シムテムに入力して設計しても良いくらいです。
考えない設計などエンジニアには必要ないですからね。
では送電線おける保守性とはどういうものか?
具体的には
・鉄塔に昇りやすいか?
・回線誤認はしにくいか?
・営巣が出来た際に活線工具で安全に除去できるか?
・事故時に現地に歩いていけるルートが確実に存在するか?
・植物との離隔は十分に確保出来ているか?(将来的な伐採のしやすさも加味する)
・用地事情でトラブルにならないか?
言い出すときりがないですが、大まかにはこの辺です。
一番重要なポイントは"保守時に安全に作業できるかどうか"です。
毎回鉄塔に昇るたびに不安全行動に繋がるような構造になっていると感電・墜落・その他災害リスクが高くなります。
高すぎる鉄塔もあまり良くないです。
保守性の高い設計はその後の作業員の命を守ります。
経済性
経済比較も重要です。
鉄塔を高くするか?
鉄塔を低くして線下伐採を増やすか?
懸垂型鉄塔にするか?耐張型鉄塔にするか?
現地条件と保守性を加味して最適な設計条件を判断します。
少しここに労力を投下するだけ何千万円というコスト削減に繋がります。
具体例を上げると
高さが40m、重量6tの鉄塔と高さ50m重量10tの鉄塔では資材費、運搬費、施工費(工事用地費加味)だけで約300~400万。
さらには半永久的に続く土地管理費、税金関係、点検費なども考慮するとランニングコストにも差が出てきます。
1基2基なら1000万円に届かないにしろ10km以上の送電線路となると2000万円以上のコスト削減に繋がります。
塵も積もれば山となる。
今までの電力会社ならコストは度外視した設計でも問題なかったのですが、これからはそうはいきません。
僕ら末端社員もコスト削減に取り組むべきなんです。
施工性
特殊個所(特殊地形、水田や狭い住宅街)などは施工を考慮した設計も視野にいれるべきです。
鉄塔をそこにしか置けない!となった場合は施工性を加味しないと建設することは不可能ですからね。
ただ、僕の中での優先順位はそこまで高くありません。
なぜかというと
施工について考えるのは"元請け会社"だからです。
僕らはあくまでも「こういう鉄塔を建設してください」と設計書や組み立て図面を渡すだけなので。
そこから工法や人員や工程を考えるのは請け負った会社に責任があります。
確かに施工方法について勉強する必要はありますが、僕らが必要以上に介入してしまうと自分の仕事の時間も削られるし、何より元請け会社の責任がなくなります。
僕的には特殊個所以外は施工性を考慮する優先順位は低いです。
社内ニーズ
電気事業法に基づき、新規で電線路を設置または変更した場合は、社内で基準に満たしているか検査を受け、合格する必要があります。(場合によっては経済産業大臣にその旨を届け出る)
この時の検査判定者は電気主任技術者になるのですが、その時その時のトレンドがあります。
植物の離隔についての考え方、鉄塔設計についての考え方(特殊個所、特殊鉄塔はなおのこと突っ込まれる)で理由つけがしっかりできていないと不合格になる可能性が出てきます。
法改正や自社基準が変わった時はその内容を設計に反映しておかないと後々の説明に苦しくなります。(大体が経済性や保守性で理由つけは可能ですが…)
会社の基準の変更には常にアンテナを張り社内ニーズを満たす設計にしたほうが、検査が後々楽になります。
社外ニーズ
主に特高の大口需要家(工場など)や最近だと再エネ関連関わる事業者との連系線路の場合に考慮する部分です。
第一前提に、需要家、事業者と電力会社では設計思想に違いがあります。(ココ大事)
僕ら電力会社は安定供給が第一前提なので、自然条件を酷な方で考えて、異常気象にも耐えうる設計にしています。(50年以内◯◯%の確率で発生する異常気象に耐えうる設計など緻密なノウハウが蓄積された設計です)
一方で需要家、特に再エネ事業者コスト重視です。
電気設備技術基準を満たしていれば、現地の自然条件などあまり考慮しません。
この辺はお互いの妥協点を探りながら設計する必要があります。
自社設備なのに自社基準に満たない…なんてことも場合にはあります。
ただ、お客様ニーズがどうしても優先されてしまうのはもどかしいところです。
社外ニーズは優先順位は高めです。
送電線の設計は調査がなによりも大事
段取り8割。
という言葉がありますが、設計においても事前調査はかなり大事です。
設計の事前調査を疎かにするとリテイク回数が多くなり、その分コストも掛かってきます。
僕の失敗事例を上げると、新設線路の調査測量を疎かにして3回測量をやり直したことがあります。
原因は地形的要因に関して現地確認にもせず、測量会社任せにして自分は机上でのみ確認していたことです。
1回のやり直しでも2~3ヶ月の期間が必要となるので3回だと約10ヶ月は期間が必要となります。
掛かったコストは数千万円。
これだけもどんでもない金額になっちゃってますね…
当然時間にも追われてすごく忙しかったです。
この苦い経験は僕にとっての学びであり、気づきも得られ、良い経験になりました。
送電線路の設計は設備として大きい分、一つ一つに掛かるコストも大きくなります。
事前調査、準備を疎かにするとコストに直結します。
いくら経済的な設備設計でも事前調査、準備の段階で膨大なコストが掛かっていたら元も子もありません。
他の設計にも言えることですが、事前調査を準備はじっくり行った方が間違うリスクは圧倒的に減ります。
超高圧送電線の設計者は希少価値があります
僕が設計しているのは送電線路の中でも154kV以下の送電線路です。
ここから一つ上のステージに上がると超高圧設計になります。(275kV以上)
超高圧設計は規模も金額も僕のやっている設計とは比べ物ならないくらい大きいです。
当然、できる人は全国でも限られた人であって、希少な存在となります。
"希少価値"はどの分野にも存在しますし、極めれば社会的ニーズが高くなります。
つまりは自分の市場価値が上がります。
皆さんも今自分が携わっている仕事に希少価値を見つけて、極めて見るのはいかがでしょうか?
今回は以上になります。